「憧れを超えた侍たち 世界一への記録」を観た

野球を知らない人もご存知だとは思いますが、2023年3月に行われた野球の世界大会ワールド・ベースボール・クラシック(WBC)で日本が通算3度目の世界一になりました。

それからまだ3ヶ月も経っていない6月にこの「憧れを超えた侍たち」という日本代表のドキュメンタリー映画が公開されたわけですが、実は優勝していなかった年のWBCでもこういう映画は作られています。

なので、たまにネットでそういう意見を見るのですが、「金儲けのために急遽作ることにした」、というわけではないようです。

とはいえ、優勝してなかった年の映画はあまり話題になっていなかったように思えますし、自分も実際見てはいないのですが、今回のWBCには本当に楽しませてもらったので、観に行くことにしました。

公開日は都合が悪いことに台風が来ていて大雨でした。

期待値

とにかく自分は今回のWBCに本当に楽しませてもらいました。日本が優勝したからというのもそうですが、他国の試合も面白いものが多かったからです。

時差の影響で、深夜を含め1日中野球の試合をやっているという、自分のようなコアな野球ファンにとっては夢のような状況になっていました。

また、チェコやオーストラリアなど比較的野球の人気の少ない国の参戦も大きかったです。

WBCはサッカーのワールドカップに比べまだ知名度も権威も足りないので、たいした価値のない大会だと捉え、ケガのリスクを避けるため出場を辞退する有力選手は少なくありません。

それでも、そういった野球発展途上国に野球の面白さを伝えて普及させたい、ゆくゆくはワールドカップのような権威のある大会にしたい、という想いが運営側にはあるはずです。

とはいえ、この映画で扱われるのは日本代表ですし、そういった他国の事情やWBCの理念までを2時間ちょいの映画に盛り込むのは難しいでしょう。なので、そこは諦めていました。

また、自分はYouTubeなどによく投稿されている「名シーンを集めたハイライトPV」のようなものが好きです。その動画を観ただけで一気にその時の気持ちを思い出せるからです。

自分の好きなシーンが全部入っていて、この映画がそのようなPV的な存在になってくれればいい、と思います。これが期待でした。

構成

構成はよくある感じでした。最初に優勝の瞬間が流れ、それからは一度過去に戻り、時系列順に進んでいきます。

栗山監督がメンバーを選考するところから始まり、キャンプ、練習試合、一次ラウンド、決勝トーナメント……という流れです。

大会が後半になるほど、試合内容の描写は濃密になっていきますが、一次ラウンドなどは圧勝の試合がほとんどでしたから、得点シーンすべてを紹介することは出来ないので、印象に残ったシーンだけが残りました。

このチョイスがなかなか絶妙だなと個人的には思っています。「あれを消すなよ!」みたいなシーンがほとんどなかったからです。全部入っていたら重すぎますしね。

自分が決勝戦で好きなシーンは、試合展開というより、試合前に大谷と、大谷のロサンゼルス・エンゼルスでのチームメイトであり最強の選手であるマイク・トラウトが、それぞれ国旗を持って入場するシーン。

最後に大谷vsトラウトで試合が終わる前に、打席の準備をしているトラウトの背中が映るシーン。だったりします。

これは、野球の試合展開には関係のないものなので、無いかもな、と思っていたら、ちゃんと映されていました。これはとてもファンのツボを抑えていると思います。

選出

近年のWBCはメジャーリーガーの参加率が下がっていました。今回、最年長としてチームの精神的支柱の立場を担っていたダルビッシュも、過去にWBC参加に対して否定的なコメントを残していたことがありました。

しかし、今回は大谷翔平を含め、多くのメジャーリーガーが参戦してくれました。特に、メジャー移籍一年目は適応のための準備に専念するべきであり、参加すべきでないと言われていた吉田正尚の参加は驚きました。

この映画は、メンバーを選考するところから始まるので「え!?吉田来るの!?」という、あの時の気持ちを思い返すことができました。

思い返せばこの時点で、「今回のWBCはなにか違うぞ」という気持ちになっていたような気がします。

選手

大谷翔平

大谷の活躍は言うまでもないので、単に大谷の活躍シーンだけを紹介するような形になっていなかったのが良かったと思います。

大谷が中国戦でタイムリー2ベースを打った後、ベンチ裏で「まじかよーホームランに出来たよー」とぼやいているシーンなどがありました。

大谷をよく知っている野球ファンは、大谷にはそういう子供っぽい面があるということはよく知っているのですが、最近のメディアでの聖人君子のような扱いを見ていると知らない人もいるのではないでしょうか。

期待値として述べたように、最初は思い出を振り返るダイジェスト映像を求めていたのですが、こういう映画でしか見られないものがあるというのは改めて良いと思いました。

ちなみに大谷が自分の看板に直撃する特大のホームランを放った有名なシーンもあったのですが、ボールが看板に当たるところは映されませんでした。

別に、何度も見たのでなくてもいいのですが、あっても良くない?とは思いました。

吉田正尚

満を持して参加してくれたメジャーリーガーが全然活躍しない、なんてことはよくあることですが、その心配を裏切り、大活躍してくれました。

MVPを取った大谷と同等の活躍をしてくれたと思いますが、その割にはこの映画での取り上げ方が薄かったかなとは思います。

メキシコ戦で放った同点3ランホームランは、テレビの映像では打球がどこに行ったのかよくわからなかったのですが、この映画でも特に打球の行方は映されませんでした。

なかなか持ってない男なのかもしれません。

ダルビッシュ有

先に述べたように、ダルビッシュは過去にWBCの参加に否定的なコメントを残していました。

日本に居た2009年のWBCには参加しているものの、その後メジャーリーグ移籍を経て、「WBCの結果を知らない選手は多く、アメリカではなんとも思われてない」とツイートしています。

それも過去の話なので、ダルビッシュの考えも、アメリカにおけるWBCの扱いも変わったのでしょう。

SNS上の投稿で、みんなを飲み会に連れて行ったりしている姿が投稿され、最年長選手として精神的支柱の役割を果たしていたな、ということは知っていたけれど、この映画では、技術的な面もかなりサポートしていたことがわかります。

佐々木朗希に変化球を教える姿などが映されていました。

「変化球なんて、数日ですぐ身につくようなものなら最初から苦労はしないだろう」と素人ながら思うのですが、そういう技術的なサポートをしていたのは意外でした。

近年はSNS上で攻撃的な発言などもほとんどしなくなり、「ダル丸くなったな」なんてことはよく言われているのですが、自分は正直半信半疑だったところで、この映画を見て「本当に丸くなったんだ!」と思ったりしました。

勝手な1ファンの意見です。

源田壮亮

小指骨折のケガをしながら強行出場した源田ですが、ケガ直後も、ベンチ裏で「出る」と言い続けていたことがわかります。

源田といえば球界最高のショートの守備職人。ショートなら、守備・打撃ともに高レベルな坂本勇人もいますが、今回は辞退。

代わりのショートの中野も悪い選手ではないですが、やはり源田・坂本に比べれば落ちるので、源田が出られるなら出て欲しい。

強行出場していたエピソードだけですでに十分ガッツは伝わっていますが、今回の映画でより強く印象付けられました。

佐々木朗希

佐々木朗希といえば、日本人で一番速い球を投げるピッチャーで、MAXは大谷翔平と同じ165km/hですが、平均球速は大谷より上です。

しかし、まだ21歳の若者。準決勝のメキシコ戦で先制3ランホームランを浴びた時、マウンド上にへたりこむ姿が映されましたが、この映画ではもっと深いところまで切り込んだ映像が見られました。

グローブを投げつけたり、泣きそうな顔をしている21歳の姿を見ると、親のような気持ちになってしまいます。

もしあのまま追いつけずに負けたとしても、誰も佐々木朗希のせいだとは思わないのですが、佐々木にとってはそうではないのでしょう。

本当に勝てて良かった、と思います。

山川穂高

先月、強制性交事件を起こして書類送検されましたが、普通に登場しました。

準決勝で1点を入れる犠牲フライを打っているので、完全にカットはできなかったのでしょう。

ただ、それ以外のシーンには全くいませんでしたので、こっそりカットはされているのかもしれません。

まとめ

最初に述べたように、他国での盛り上がりまでを紹介することはできないし、日本人のすべての選手にクローズアップは出来ないとは思います。

それを前提に考えれば、とてもいい映画だなと思いました。

名シーンを思い出して胸を熱くさせることはできますし、この映画でしか見れない裏側もふんだんにあります。

また、野球の試合は3~4時間あるのに気づいたら終わっているのと同じ理屈なのか、2時間ちょいがとても短く感じました。

野球に全然興味がなくてもおすすめ……というほどではないですが、WBCに少しでも胸を熱くさせられた人は観てみてもいいのかなと思いました。